FLY

籠の中で飼っていた鳥が
器用に出口を開けて飛び立つ
オレは慌ててそれを追う-----。

だって餌の捕り方もしらねぇのに「外」を求めて何になる。

----そう思うから囲ってやっていたのに
目の前でアイツは飛び立ちやがった。

一度も振り返りもせずに。




















じとじとする空気が嫌でも肌に纏わりつく梅雨の日---。
「んあーーー」
沖田は一人だれていた。
お気に入りのアイマスクを額に上げ、珍しく眉間に皺を作っている。
最近この憂鬱さが消えない。
屯所に植えられた紫陽花がしっとりと花を濡らして、それぞれの色に咲き誇っている。

 そういや、土の成分で花の色が変わるって、何かの本で読んだなァ
その花は沖田の望むものに近く、嫌いだったこの季節にも僅かばかりの愛着が生まれた。

 あの野郎も、紫陽花になりゃいいのに

他のものに染まらない、あの男の気高さが気に入ってはいたが、自分にだけだったら・・・と独占欲をそそって来るあの瞳が頭の中でチラついた。

そんな沖田の目の前を山崎が通り過ぎていく。
 何だ、コイツ。元気ねぇな
おっちょこちょいなこの男のことだ、また何かやらかしてしょ気ているのか、撫で肩な肩をさらに落とし、カックリと首を折ってうな垂れている。

 そういや。コイツで思い出したけど、朝から土方さん見てねェな

だから調子が悪いのかと、沖田は一人気持ちを片付け山崎に声をかける。
ひょっこりと顔上げて、近づいてきた山崎に「土方さん見なかったかィ?」と聞くと、ますます山崎の顔が曇った。

「・・・土方さんなら  例の所  じゃないですか?」

----例の所。
 聞くんじゃなかった。
そう思うよりも早く、気持ちの中に黒いものが侵食してくる。
 また、勝手なことしてやがんのか。オレの知らないところで。
イライラが表情に出ていたのか、山崎が付け加える。


 「もう。そっとして置いてあげませんか?」


言ってはいけない一言であることは山崎も十分分かっていた。
だが、彼に合わない冷めた言い方。
しょ気ていた理由もコレかと沖田は感づく。
「てめぇ。山崎。誰にモノ言ってるんだィ」
いつもならこの辺で、慌てて謝って来る山崎もぴしゃりと言葉を続ける。

「土方さんには組とは違う、・・・その・・もう一つ大事なのものが・・・」
山崎のはっきりした言葉に、自分よりも確信めいたものを知っているのだろうこと、
そしてコイツは、それがもうどうにもならない事だと、静かに心を閉ざしているのだと沖田は悟る。

「誰かが今更ちょっかい出したところで
 年季の入ったあの野暮天は一生気がつかないでしょう。」
言った、山崎の一言で鬱陶しく纏わりついていた空気も、一瞬で張り詰めたものに変わる。
受け流す山崎と睨みあげる沖田の目は、在り来たりな火花を散らすことは無い。山崎は元々、沖田と張り合うつもりはないのだから。

「オメェには関係ねェだろ」
「心配なんです」

その一言で沸点を超えた沖田が勢いで抜刀する。
------局中法度。
 あの阿呆が考えたものなんざ糞くらえだ。

「あと一言でもしゃべってみろィ。次の瞬間は首がねェと思えよ」
切っ先を山崎の喉下に当て、額がぶつかるほどの距離で睨みつける。


「分かりました。----ただ。」

抜刀されたことに僅かにも怯まず、山崎が言う。

「・・・・・万事屋の旦那も馬鹿じゃないって事だけは言っておきます。
 あ!コレ。僕からの餞別です」
最後に笑顔をつけて言葉を置いた山崎は「刀下ろしてくださいよぉぉおお」といつものように情けなく泣く。

「オレのことなんか、これぽっちも想ってないくせに。よく言うぜィ」

「ハハハ。組の皆が幸せなら良いなって思ってるだけです。」




-----歪んでる。



山崎は心底思った。
だけれど、目の前で誰かを想って、自分以上に心を歪めている人間を見ていると、どこかホっとするのは何故だろう。
沖田を見ながら山崎は、何度目かも忘れた同じ問いを考えていた。
そして、きっとそれがいくら相手を想うものであっても、叶うことはないだろうと思うからこそ、傍観できる。
結果は、残酷なほどに明白だ。
叶わぬ想いに、時として自分を見失い、次第に歪んでいく----。
他者だからこそ、自分は傍観できるのだと、今になって漸く気がついた。
誰もが秘めている、黒く歪んだ感情。


「いい役、回してもらっちゃったな」

山崎の呟きは皮肉に歪む。




      ☆